認知向上から政策変革へ
レアディジーズデー(Rare Disease Day)は、2008年の開始以来、毎年2月28日に実施されています。今年も、EURORDIS–Rare Diseases Europe(欧州希少疾患連盟)が主導し、106か国・70以上の国別団体が参加、600以上のイベントを通じて、希少疾患とともに生きる人々への認知向上と政策変革を目指します。
希少疾患は、欧州では人口2,000人に1人未満、米国では患者数20万人未満の疾患と定義されています。さらに、その約85%は100万人に1人未満という極めて低い有病率です。科学文献において5症例以上が報告されている希少疾患は、全体の約1,200疾患に過ぎません。¹² これは、疾患そのものの稀少性に加え、患者特定の難しさを反映しています。
中には、例外的にまれな疾患も存在します。たとえば、重要な酵素の欠損によって引き起こされる代謝性疾患であるリボース-5-リン酸イソメラーゼ(RPI)欠損症は、1984年に初めて報告された1症例のみが確認されています。また、筋肉の変性と全身の筋力低下を引き起こす神経筋疾患であるフィールド病は、双子姉妹2名にしか認められていません。
しかし、レアディジーズデーの最も重要なメッセージは、希少疾患は総体として決して希少ではないという点です。世界には6,000~10,000種類の希少疾患が存在するとされ、ノーステラの一員であるサイトライン(Citeline)によると、世界で約3億人が希少疾患を抱えており、生涯のうち約5%の人が何らかの希少疾患を経験すると推定されています。²
定義の難しさと診断の遅れ
多くの希少疾患は重篤です。がん、希少感染症、免疫不全症などを含み、患者本人だけでなく、介護者や地域社会全体に大きな影響を及ぼします。
希少疾患は全体の疾患負荷と比べて75%が小児に影響し、70%が小児期に発症、72%が遺伝性である点も特徴です。¹
症状は多様で、しかも一般的な症状と重なることが多く、同一疾患でも患者ごとに症状が異なるため、診断や治療が遅れる原因となります。
実際、診断までの平均期間は4~5年とされ、初めて医療機関を受診してから1年以上確定診断を得られない患者が70%に上ります。¹²
この待機期間は、多くの患者にとって致命的となり得ます。
希少であるがゆえに、臨床知識や専門性は限定的で、95%の希少疾患には承認治療法が存在しません。
EURORDIS–Rare Diseases Europeは次のように述べています。
「希少疾患患者は、数としては多いにもかかわらず、医療システムの中で“孤児”のような存在であり、診断、治療、研究の恩恵から排除されがちです。」¹
その結果、希少疾患患者のうつ病罹患率は一般人口の3倍に達しています。
多くの希少疾患は慢性・進行性・変性性であり、自立性の喪失や生涯にわたる障害をもたらします。介護者への影響も大きく、EURORDISによれば、患者と家族の70%が就労を縮小または中断し、同程度の割合の介護者が1日2時間以上をケア関連業務に費やしています。¹
臨床試験における患者リクルートの課題
希少疾患領域における研究開発(R&D)は、非常に困難です。患者数が少なく、地理的にも分散しているため、臨床試験で十分な患者数を確保・維持することが難しいのが実情です。多くの疾患では既存治療がなく、研究の指針となる過去データもほとんどありません。
サイトラインで患者エンゲージメント&リクルートメント担当VPを務めるMatt Holms氏は次のように述べています。
「多くの希少疾患では、これまでに研究自体がほとんど、あるいは全く行われていません。どこに患者がいるのか、どの施設を選定すべきか、どのように登録を確保するのか――多くのスポンサーが初めて直面する課題です。」
さらに、In Vivoの製薬・バイオテック記者であるDavid Wild氏によると、GLP-1作動薬の成功や心・代謝系治療の市場拡大を背景に、R&Dの注力分野が大規模慢性疾患へとシフトする傾向も見られます。加えて、米国では連邦予算やメディケア償還、高額な希少疾患治療に対する不確実性も存在します。
Pink SheetのシニアライターであるEliza Slawther氏は、
「EUではオーファンドラッグのデータ保護制度変更が、今後の希少疾患治療開発にとって課題となる可能性があります。一方、米国でも政治的変化により、希少疾患医薬品開発の資金が凍結される懸念があります。」²
と指摘しています。
希望の灯
これらの課題は一朝一夕に解決できるものではなく、今後も長期的な取り組みが必要です。未発見の希少疾患はまだ数千存在すると考えられています。また、がんをはじめとする一般的な疾患の治癒や長期管理が進むことで、新たな希少疾患が顕在化する可能性もあります。
一方で、前向きな兆しもあります。2024年にFDAが承認した新規医薬品の52%は希少疾患治療薬でした。サイトラインの『Pharma R&D Annual Review 2025』によると、製薬業界全体でターゲットとされている希少疾患数は年々増加し、786疾患に達し、累計2,577疾患に対してスポンサー活動が行われています。³
レアディジーズデーへの参加
2月28日には、個人、団体、機関が、認知向上、地域コミュニティとの連携、一般市民への教育、政策提言、研究・ケアへの寄付などを通じて参加することが呼びかけられています。
その象徴的な取り組みが「Light Up for Rare」です。世界各地で建物がライトアップされ、希少疾患とともに生きる人々への連帯を示します。
たとえば北アイルランドでは、Northern Ireland Rare Disease Partnership(NIRDP)の働きかけにより、今年10棟の建物がライトアップされます。⁴
2022年2月21日には、ウクライナの希少疾患団体がキーウのオフマトディト小児病院をライトアップしました。翌日、ロシアが侵攻を開始しました。その後、病院は爆撃で被害を受けましたが、2024年2月末には3夜連続で再び照らされました。
ウクライナ希少疾患評議会議長のTetiana Kulesha氏は、
「再び光を見たとき、それは力強さの象徴でした。私たちは勝利を信じていることを示したのです。」⁴
と語っています。
主催者は次のように締めくくっています。
「レアディジーズデーは、単なる啓発イベントではありません。希少疾患のある人々が、医療、研究、社会的支援において公平なアクセスを得られる未来へ向かうムーブメントです。グローバルな協働、アドボカシー、行動を通じて、世界中の何百万人もの人々に意味のある変化をもたらすことができます。」¹
参考文献
- https://www.eurordis.org/information-support/what-is-a-rare-disease/
- https://www.citeline.com/en/resources/rare-disease-r-and-d
- Pharma Projects 2025
- https://www.rarediseaseday.org/news/light-up-for-rare-global-initiative-impact/#:~:text=When%20we%20saw%20the%20light,Council%2C%20Rare%20Diseases%20of%20Ukraine4.