患者・医師理解を次のレベルへ
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リアルワールドデータ(RWD)が進化する中で、診療記録や検査レポートといった非構造化データの活用が、ライフサイエンス企業における患者・医師理解の在り方を大きく変えつつあります。これらのデータソースは、患者体験、疾患進行、医師の意思決定といった、従来の構造化データでは捉えきれなかった文脈に富んだインサイトを提供します。
最近開催された業界イベントにて、Pfizerでオンコロジー領域を統括するディレクター兼チームリードのJoanne Tsai氏、ノーステラのRWDソリューション担当シニア・プリンシパルであるLance Wolkenbrod氏、そして同じくノーステラのRWD領域チーフ・クリニシャンであるMadeline Naylor氏と対談を行いました。テーマは、非構造化データがどのようにして潜在的な患者集団の発見、医師ターゲティングの高度化、そしてコマーシャル戦略と臨床現場のギャップ解消に貢献しているか、という点です。
Q:ここ数年で非構造化データの活用はどのように進化し、なぜ患者集団の理解にとって重要なのでしょうか?
Lance Wolkenbrod:
これまで私たちは、ICD-10コード、CPTコード、治療コードといった構造化データのみに依存して患者を理解してきました。これらは償還状況の把握には有用でしたが、実際の診療現場で何が起きているのかを十分に反映しているとは言えませんでした。
電子カルテ(EMR)が進化したことで、医師が実際に記載する非構造化の診療ノートにアクセスできるようになりました。そこには、医師の思考プロセス、患者の症状、治療選択の理由などが含まれています。かつては、こうしたデータを分析することは非常に困難でしたが、AIや自然言語処理(NLP)の進歩により、以前は不可能だった意味のあるインサイトを抽出できるようになっています。
Q:Joanneさん、Pfizerでは現在、非構造化データをどのように活用して患者集団を把握し、コマーシャル施策を支援していますか?
Joanne Tsai:
私はコマーシャル部門に所属し、ブランドリードやセールスリーダーと密に連携しています。私たち自身が非構造化ノートの生データに直接アクセスすることはありませんが、ノーステラのアナリティクスチームが抽出したバイオマーカー情報などのインサイトを活用しています。
たとえば、患者がBRAF陽性かALK陽性かといった情報は、クレームデータには存在しませんが、市場シェアの推定やパフォーマンス評価を行う上で非常に重要です。
また、非構造化データを活用してラボアラートを生成し、フィールドチームに提供しています。これにより、特定のバイオマーカー検査で陽性となった患者を治療している医師を特定でき、最適なタイミングでのエンゲージメントが可能になります。
オンコロジー領域の中には、該当患者が全体の3〜5%に過ぎないケースもあり、従来のデータだけで患者を見つけることはほぼ不可能です。フィールドチームにとって、これらのアラートは行動につながるリードであり、医師との対話を深め、結果として患者が適切な治療に早くアクセスできるよう支援しています。
Q:臨床の視点から見て、非構造化データが「見えない患者」を特定する上で強力なのはなぜでしょうか?
Madeline Naylor:
非構造化データは、構造化データにはない臨床的な深みを提供します。医師が診療ノートを記載する際、症状、画像所見、検査値、市販薬の使用状況まで含めることがあります。
たった1段落のノートの中に、患者がどのように受診し、医師がどう評価し、どの治療を開始し、次に何を予定しているのかといった臨床全体像が詰まっています。
オンコロジーや神経疾患のような領域では、この文脈が極めて重要です。正式な診断が下される前の段階で患者の受診パターンを把握できれば、より早い段階で患者を特定し、適切な支援につなげることができます。これこそが、非構造化データの力です。
Q:非構造化データを扱う上での主な課題は何でしょうか?
MN:
最大の課題は、スケールと変換です。私たちのEMRデータには、事前承認、遺伝カウンセリング、看護師コンサルト、画像、バイオプシーレポートなど、600種類以上のノートタイプがあります。これは大きなアセットですが、適切に構造化・解釈できて初めて価値を発揮します。
AIやNLPによって大きな進歩はありましたが、これは今も進化の途上にあります。クライアントとの密な連携と、ユースケースごとの継続的な改善が不可欠です。
JT:
コマーシャルの観点では、データリテラシーも大きな課題です。多くのチームはクレームデータには慣れていますが、EMRデータ、特に非構造化データには不慣れです。このデータの可能性や、責任ある解釈方法を理解してもらうには時間と投資が必要です。
私たちのチームでも、非構造化データを基にした信頼性の高い市場シェアモデルを構築するのに6か月を要しました。成果は大きかったものの、学習曲線があることを理解してもらうことが重要です。
Q:患者特定以外に、非構造化データはどのような新しい機会をもたらしますか?
MN:
現在は患者を見つけるだけでなく、医師の行動の「なぜ」を理解するためにも非構造化データを活用しています。
なぜ特定の薬剤が選ばれるのか、なぜ臨床試験に紹介されないのか――診療ノートを分析することで、副作用への懸念やアクセス障壁といった、これまで見えなかった理由が明らかになります。
さらに、医師プロファイルや紹介ネットワークの構築も可能になります。誰が臨床試験に患者を紹介しているのか、誰が早期処方を行っているのか、ケアチームがどのようにつながっているのかを把握でき、臨床試験とコマーシャル戦略の双方を支援します。
JT:
その通りです。私たちはこうしたインサイトを活用してダイナミック・ターゲティングを高度化しています。患者の受診シーケンスを分析することで、処方医だけでなく、NPやPA、他の専門医など、治療決定に影響を与えるケアチーム全体を特定できます。これにより、真の意思決定ネットワークにアプローチできるようになります。
Q:今後、非構造化データはRWDとコマーシャル戦略の未来をどのように形作っていくでしょうか?
Lance Wolkenbrod:
私たちは今、過去分析からリアルタイム・インサイトへと移行する転換点にいます。モデルがより高速かつ高精度になることで、新たな患者集団の兆候を捉え、エンゲージメント戦略を最適化し、治療アクセスの向上を支援できるようになります。
重要なのは、データの量ではなく、患者アウトカムを改善し、より賢明な意思決定を可能にする「意味のあるデータ」です。